醍醐味

からっとした晴天続きで心底居心地の良かったラオスを飛び立ち1時間程度だろうか、重苦しい雲が隙間なく空を埋め尽くすハノイに降り立った。

じめじめとした空気。鼻につく排気ガスと食べ物の臭い。狂ったかのように鳴り止まないクラクション。原付バイクでごった返す車道。少しでも立ち止まると話しかけてくる売り子。
前日の寝不足が高じたのだろうか。レートの良い換金所を探しがてら街をぶらついただけの数時間で私の頭は痛み始め、五感は悲鳴あげていた。とにかく疲れる街であった。

「つかれた。この街はすきじゃないよ。」
その日の夜、ホテルのベッドに寝転がりながら私は両親にそう連絡をいれた。正直に言うと私はハノイ初日にしてかなり参っており、誰かに愚痴を言いたかった。ラオスの綺麗な空気や田舎の田園のような静けさを、可愛い町並を、予定のないよく晴れた土曜日のような心地よさを偲んでいた。今考えると、所謂カルチャーショックを受けていたのだと思う。

しかし、返ってきた返信は私が予想し、少し期待していたものと大幅に違っていた。
「それが、東南アジアの醍醐味なんだと思うよ。」
私はすっかり納得させられてしまった。確かに私の不快感の原因は今まで日本で経験したことのない、そしてこれからも経験出来ないであろうものたちであった。

その次の日から、私の考え方は変わった。混沌という言葉を具現化したような街の様子や「ハロー」さえ通じない人々の生活に興味を持った。不快感さえ悪くない気もしていた。

醍醐味。そうなのかもしれない。
カルチャーショックこそ、旅の醍醐味なのかもしれない。
一度でも旅に出ると私達は、そのカルチャーショックに味を占めるのだろう。世界地図を見て、私の知らない国に住む人々の生活に思いを馳せる。「カルチャーショック」が、私達を呼んでいるような気がした。

【文責:7期 壹岐惟子】

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