一杯のチャイ

インドの砂漠。暑い。喉が渇いた。水が欲しい。そう切実に思った時、ジャイサルメールのホームステイ先で出されたのは、熱々のチャイであった。こんな暑い時になんか飲みたくなんてないよ。そう思っていた。だが実際に汗を流しながら飲んでみると意外にも美味しい。大量に入れたであろう砂糖の甘味と、これでもかと主張してくる生姜の味が案外癖になる。そんなチャイが私は好きだ。

インドにはスパイスを入れたミルクティー、チャイがある。最近は日本でも販売してることもあり、その存在自体を知っている人は多くいるだろう。私自身もその内の一人であった。実際にインドに行ってみて感じたことがある。インドはチャイにありふれている。どの売店にもチャイがあり、寝台列車の中でさえ売りに来る。チャイを知っている多くの人はそれをインド版のミルクティーぐらいにしか思わないだろう。しかし、私にとってチャイとは、飲み物という他に、コップ一杯で「インドという国」そのものを表しているかのように感じる。

チャイの二つの重要な構成物はスパイスと砂糖だ。何のスパイスを使うかは各家庭によって違う。ある家庭では生姜とシナモン、別の家庭では多めの生姜にカルダモンと少量のブラックペッパー。味付けは各家庭によって異なる。しかし、最終的にはそれらが最高に美味しいハーモニーを醸し出す。それがまるで多種多様な人種に、何百種類とある言語が共存している、インドの国民のようである。

またチャイの非常に強い甘味は、ある種インド人の性格の甘さを表しているようだ。インド人は時間にとてもルーズである。ヴァラナシからアグラへの寝台列車のことだ。到着時刻は本来6時すぎであったのに、実際に着いたのは12時前ぐらいであった。約6時間遅れ。でもそんなことを気にしているのは日本人である私だけであった。現地の人は当たり前かのように平然とした態度でいた。このようにチャイの甘さと同様に、インドの人々は様々な点において甘い、言い換えれば寛容だ。

さらに、チャイは多くの場合温めていた鍋から直にコップに注がれる。熱すぎてそのコップが持てないぐらい、熱々の状態で渡される。そんなチャイの温度と同じぐらいにインド人はとても情熱的にしゃべり、気さくでとても温かい人間味のある性格をしている。そんなほっこりとする部分に共通点を見出せる。

そしてあの癖になるチャイの味がインド人の憎めない人懐っこさが似ているように感じる。時としてインド人はとてもしつこく、めんどくささを感じる。特にオートリクシャの外国人価格からインド人価格に値切ろうとしている時。

「駅まで幾ら?」「150ルピー」

「いやそれは高い、100にしてくれ。」「わかった。じゃ200ルピー。」

値段を下げようとしているのに、いきなり上げてくるあたりにツッコミを入れたくなる。そんなインド人の適当さにふとした時、笑みがこぼれる。暑くて飲みたくなくても、美味しく感じるチャイがそれを表現している気がする。

そうこう考えているうちに、満面の笑顔で外の売店の店員さんがチャイを私に渡した。

やはり暑いが美味しい。

チャイは美味しい。チャイは奥が深い。そしてチャイはインドだ。

【文責:9期 荒木穣次】

 

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