橙の魔法

この世には二種類の人がいると思う。過去を振り返る人と、振り返らない人だ。あなたはどちらだろう?私は完全に後者である。どうしても「過去は過去、今は今」と、待ち受ける未来へと意識が向いてしまうのだ。悲しいことに、冷たい人間だと思われることもある。(本当はそんなことはない、筈だ。)

最終日の夜、今までの3週間を振り返る。何か思い出そうとするのだが、どれも煙のようにつかみどころがない。

遠くから聞こえる不思議な音楽に誘われるようにして、私はホテルの外へ出た。
すっかり暗くなった空。少し靄がかかった空に星は見えない。パゴダがある場所がうっすらとオレンジ色に光っているだけだ。そういえば、この旅はオレンジ色でいっぱいだった気がする。

おれんじ。
ベトナムで仲良くなった、レストランのお兄ちゃん。オレンジ色のTシャツを着ていた。少し鮮やかなその色は、笑顔が素敵な彼にとてもよく似合っていた。
パブストリートでトゥクトゥクのおじさんに火をもらった。暗闇の中、おじさんのたばこがぼんやりと皺だらけの手を照らし出す。
シェムリアップのゲストハウスのバルコニー。目の前の街灯が煌々と光り、辺り一帯をオレンジ色で染め上げていた。
今はヤンゴンでひとり。私はホテルの外で椅子に座り、橙の電灯の光に包まれている。
それぞれの街のことを思うと、そこで出会った人びとの顔が浮かんでくる。体験に裏付けられた彼らの言葉が、私の中で力強く弾けていった。出会った人の数だけ、自分の価値観が広がっていく。そんな感覚だ。

アンコールワットで見た夕日、山の上で見た夕日、ゲストハウスへの帰り道で見た夕日。夜が始まる直前の空の色を、3週間弱を共にした仲間の顔なしには思い出すことはない。



ありがとうオレンジ。君のおかげでたくさん思い出すことができたよ。君のおかげでこの旅がもっと好きになったよ。そして、君のおかげで、今、寂しくて寂しくて仕方がない。

あまりにも陳腐で
自分でも恥ずかしくなってくるのだけど、
あまりにも本音なので
他に言葉が見つからないんだ。困ったなあ

【文責:8期 木下真紀】

 

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