600ルピーの夜

インドの首都デリーから電車に揺られること7時間。

本当は6時間の予定だったけど。
まあ、これがインドだ。

アジメールに着いた。
そこからリキシャで山を一つ越えたところに小さな村がある。
プシュカルという村だ。
そこには、白い建物に囲まれたヒンドゥー教の聖地である小さな湖。
広大な砂漠。
カラフルなバザール。
真っ青な空は夜になると満点の星空に変わる。
インドでは珍しいほどの静かで穏やかな村だ。

そんなプシュカルで出会ったジプシー(*)の女の子との話。

湖のほとりの路上で手作りのビーズのアクセサリーを売る女の人たちがいた。
身なりは綺麗とはいえない。
それでもダンスが好きというその立ち姿はとても綺麗だった。

私たちは友達になったスウェーデン人バックパッカーと一緒に
彼女達に夜ご飯をごちそうになることになった。

そのときの私はぼったくられるだろうと思いよりも好奇心の方が強かった。

村の中心部にある湖から歩いて30分ほどのところに彼女達の家はあった。
家といっても砂漠の真ん中にある、掘建て小屋のようなところ。
彼女は、この家では雨はしのげないと言った。

想像をはるかに超えたその住まいにすこし愕然としている私に彼女達はヘナアート(*)をしながら次々と家族を紹介してくれた。

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たくさんの妹、弟、そして母親。
しかしそこに父親はいなかった。
酒を飲み、稼いだ金を盗む父親は、喧嘩の末なくなってしまったと言っていた。

私にヘナアートをする彼女の膝の上には1歳の赤ちゃんがのっていた。
おむつもはけずほとんど布にくるまれているだけの赤ちゃんだった。

彼女は言う。
私は学校にも行けなくて読み書きもできない。
小さい頃からずっとアクセサリーを売ったり、ヘナアートをしたりしている。
どうすることもできなかった。これしかなかった。

私は彼女に小さいときの夢を尋ねた。
彼女は、学校には行けていないが英語が話せる。
路上で観光客を相手にするうちに学んだという。
しかし彼女は最初夢という簡単な単語の意味が分からなかった。
それでもなんとか夢の意味を理解すると、
「ダンスの先生になること」といいながら、子どもに乳をあげていた。

18歳の女の子の話だ。

彼女は最後に私にお金を要求した。
両手のヘナアートで、600ルピー。(約1000円)
ヘナアートの平均的な値段は10ルピーかそこらだ。
それを知っていて、彼女の要求が法外なのは気づいていたけど、
私は自分にとって600ルピーが大金ではないことが切なかった。

でもこの600ルピーがあればこの家族の食事がどれだけ持つだろう。
インドではそれくらいの大金だ。

もちろん日本のお金の価値とインドのお金の価値を混同するのは間違っているけど、それでもインドと日本の差が、切なかった。

いや多分違う。彼女と私の差が、切なかったのだ。

私は交渉する事もなく、600ルピーの要求に応じた。

私に残ったのは、ぼったくられた悔しさじゃなかった。
もちろんいいことをした気分にもならない。
この境遇の中でも家族と穏やかに笑う彼女のことをかわいそうだと思ったわけでもない。

なんとも言えない気分だったけど、
大人数でご飯を食べながらみるこの砂漠の星空には600ルピーの価値があると素直に思えた。

私は、彼女にありがとうと答えて帰った。

帰り道、次の目的地へ向かうためにリキシャに揺られている時、
次は彼女にダンスを教えてもらいにまたプシュカルへ来たいなと思った。

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2013.3.20

文責:高本友子

*ジプシー(ロマ):インド発祥の主にヨーロッパに存在する流浪の民。インドではアウトカースト(不可触民)。大家族で砂漠を移動し、インドでは主にラジャスターン地方に住む。女性は小さな子どもを抱えている事が多いが、これは女性の多くが売春を強いられているからと言われている。ジプシーは近年差別用語とされるが、自らがジプシーと名乗っていたので今回この言葉を用いる事にした。

*ヘナアート: 砂漠に育つヘナという植物の葉のペーストで描くボディアート。インドの路上ではいたるところで「ヘナ!ヘナ!」と声をかけられる。

 

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